
「えっ」
「なにそれ!」
「マジですの?」
魔王さまがたが、色めき立ちます。
ふだん、宮殿、魔窟などそれぞれの居所におわす魔王さまがた。今日は魔界の公宮にお集まりです。
ようは、公民館で集会。
誰が招集したのか定かではありませんが、なぜか議題は決まっていました。
それは、
ルシファー「だからぁ、なんていうの? 最近超退屈だし、こう、パーッ、と刺激が欲しいのよね」
レヴィアタン「はいはーい! レヴィ、ルシファーお姉さまに賛成~! 刺激刺激! 刺激は乙女の養分なの~!」
マモン「養分、いいですわねぇ。つねに新鮮な養分を吸収してこの身をみずみずしく保つことに、もとより異存はございませんわ」
ベルフェゴール「退屈~、いつも退屈。でもめんどくさぁい。なにもしたくない。あれ、新しいゲーム出たんだっけ、ん~」
退屈を嫌い、刺激を求める。魔王とはいえ、そこはそれ、花も恥じらう、あるいは妙齢の、どっちにしてもお年ごろ。
さっそくルシファーさまの言葉に、さまざまな意見が寄せられます。中には、意見ともつかないものまで混じっているようですが。
サタン「うむ。ルシファー卿の想い、多いに共感するところだ。退屈こそ生涯の敵! しかして如何する。さっそく軍団を招集するか。オーディンのヤツには、この間の借りもあることだ。地獄の軍団で攻め込む手立てをさっそく……」
アスモデウス「ちょっと! なに勝手に戦争の算段してるのよ! そんなの、疲れるばかりでなんにも楽しくないんだから!」
ベルゼバブ「せんそう、おいしい? せんそう、たべれる? たいくつ、きらい。でもおなかすく、もっときらい」
建設的な意見もそうでないのも、どうやら出そろったところで、ルシファーさまがおもむろに、
ルシファー「そこで! よ。みんなで学園に遊びに行くってのはどう? きゃー、決まりね!」
高らかに提言。いえ、宣言。
胸を張ります。もともと魔王さまがたの中でもトップ3には入りそうな豊満なバストが、プルッ! とこちらも自慢げに震えるほど。
ここで、冒頭の魔王さまがたの反応に戻るわけですが、
アスモデウス「がくえん? 学校のことかしら」
レヴィアタン「レヴィ知ってる! 地上界で、子どもが必ず入るところなの。お弁当食べたり、歌ったり! スポーツしたり、すっごく楽しいんだって!」
ベルフェゴール「ぇー、すっごくめんどくさそう。遊ぶのなんて、ひとりでいいよぉ。スポーツ、だるい。早く帰ってセーブポイントの続き、やりたぁい」
マモン「待って下さる? つまり、わたくしたちみんなで地上へ降りようっていうことですの?」
サタン「なに! 地上の軍隊と一戦か! 望むところだ! ヤツらの最新兵器とやら、まえまえから興味があったのだ。戦車? いくさのために作られた車だと、相手にとって不足なし! 空母? なんだそれは。空の母というからには、よほどの大悪魔か天使に違いない。腕が鳴るぞ!」
ベルゼバブ「せんしゃ、たべたい。くうぼ、なにあじ?」
あいかわらずの欠食魔王さまは置いておいても、さまざまなリアクション。ここでルシファーさま。
ルシファー「すとーっぷ! サタンはまた戦争しようとしてるし! 学園よ学園! そうよ、地上界の学園よ! でも戦争はしないわよ!」
マモン「地上なら、いままでだって、ときどきようすを見に行ったり、地上人の反応を見たりと、別にとくべつなことではありませんでしたけれど」
アスモデウス「あなたの場合は、怪しげな薬のモルモットにしたり、そういうことじゃなくて」
レヴィアタン「だったら、地上界の学園をレヴィたちでいいようにしちゃったら。低級魔族なんててきとーに使えるし! わっ! レヴィったら、あったまいいー!」
ルシファー「そう、それよ! あたしが最初から言おうと思ってたんだから、ね! いいこと! 信者の学園長使えばどうにでもなるし、地上界の学園を乗っ取って、思いっきり楽しんじゃうわよ! 退屈とはもう、バイバイなんだから!」
と、最初の宣言に戻ったルシファーさま。
こんどこそ高らかに言い放つと、いっそう胸をお張りになります。プルルッ! たわたなバストもそれはもう、いっそう揺れたことでした。
ベルフェゴール「学園、楽しい? でもめんどくさぁい! でも地上行くの? 新しいゲーム機、○-Box4の発売日なんだった。ちょっといいかも」
ベルゼバブ「おべんと、きゅうしょく? おいしそう……」
……かくして。
一夜にして地上界の学園が魔王さまがたのものとなりました。
といっても、生徒たちや関係者も、地上の人間がこれまでどおり。まったく気づかずに通っています。
サポートのための低級魔族たちが少々、あちこちに、さまざまな形に化けているようですが、そのあたりも完璧。
そんな学園の、朝。
レヴィアタン「きゃぁああ! 遅刻遅刻、遅刻しちゃうよぉおお!」
声を上げながら走っておられるのは、レヴィアタンさま。
早朝。寝坊をしたレヴィアタンさまは、身支度もそこそこに、学園への通学路、駆け足で急いでおられるのでした。
お約束? ええ、お約束です。
けれど、寝坊したのはどうやら事実のよう。
レヴィアタン「なんでレヴィが走んなきゃいけないのよぉ、こんなに! 疲れるし、納得いかない! おまけに、トースト焦げるし、落っことしちゃうし! ワンコにもってかれちゃうし!」
どうやらトーストを口にくわえて家を出る、まではうまくいったらしいのが、途中でうっかり落としてしまいました。
それを犬にすかさず取られてしまったごようす。
なぜそんなことを、というと、なにしろ地上界の学園を中途半端に研究しているため、魔王さまたちもお約束ごとだけはなんとなくご存じなのですね。その理由などはともかく。
レヴィアタン「これじゃ、道の角を曲がったら急にぶつかって、ドン! 『あん、痛ぁ~い!』って、できないじゃない! って、なんでレヴィが痛い思いしなくちゃならないのぉ? 誰にぶつかるってのよぉ!」
それは出会いというものでありまして……、まぁ、魔王さまがたには無縁のものかもしれません。
だいたい、レヴィアタンさまの想い人はすでに決まっているようなものですし。
レヴィアタン「そうよ、意味わかんないし! でもルシファーお姉さまに毎日会えるからレヴィ、がんばっちゃうんだもん! お姉さま、今日はどんなステキな出で立ちなのかな。きゃー、早く見たい早く会いたい! 急がなくちゃ! ……ん?」
しかし校舎が近づくにつれ、通学路の男子生徒たちがみんな、レヴィアタンさまを見ています。
中には顔を赤くして、指さす者も。女子生徒たちは驚きのあまりか、顔を背けてしまう者まで。
レヴィアタン「なになに? なんなの? いまごろレヴィの魅力に気づいたって、遅いんだから! レヴィはお姉さまのものなんだから、ね!」
ところが、背後から空を飛びながら追いかけてくる影があります。レヴィアタンさま、気が付いて振り返ると、
レヴィアタン「べひもす! どうしたのよ。ぜんぜん姿が見えないから、置いて来ちゃったじゃない!」
べひもす「!!」
レヴィアタンさまの使い魔の、べひもすです。
どうやらべひもす、手にしたものをかざしながら、なにか言いたいようです。
近づいて来ると、レヴィアタンさまにもわかりました。
制服のスカート。
レヴィアタンさま、スカートを履かずに登校していたのです。それはもう理屈抜きに目立つ道理です。
レヴィアタン「きゃぁあああっ! な、なによ! なんで! どうしてスカートなんか! ……ぁ」
しかし自身の下半身を見おろしてさらにびっくり。
なんと、スカートどころかショーツもありません。履き忘れたのはスカートだけではなかったのです。
こうなるともう、うっかり、天然、なんてやさしいものではありません。
正直、どうかしてるぜ! 状態。
しかしべひもす、がんばりました。
じつは、レヴィアタンさまの下着や制服をそろえて差し出すのが役目のべひもす。ほとんど家政婦さんですね。
とうぜん今朝もそうしていたのですが、ちょっと目を離した隙にレヴィアタンさまが、下半身すっぽんぽんのまま出て行くのが見えたのです。
じつはなんにでも化けることのできる、べひもす。
とっさに、自分の尻尾の毛を吹いて飛ばし、レヴィアタンの剥き出しの下半身のうち、ごく一部だけを覆ったのでした。
レヴィアタン「あ、隠れてる。ちゃんと隠れてるもん! レヴィの大事なところ、誰にも見せてないよ! べひもす、よくやったわ! お姉さまにしか見せちゃいけないところなの!」
べひもすをほめるレヴィアタンさま。
ようやく追いついたべひもす、スカートを差し出すと同時に、こんどは身体全体で、レヴィアタンさまのショーツになろうとします。
ところが、
べひもす「……むぎゅっ!」
転びました。
自分の持っていたスカートにつまづいた、ふんづけた、そんな感じです。
そして、いち早く、レヴィアタンの大事な部分を覆う一辺の布地、もとい絆創膏を先に解除してしまっていたため、
男子生徒「ぉおおお!」
女子生徒「きゃああああ!」
もっとも人の多い校門前で、悲劇は起こったのでした。
レヴィアタン「きゃぁあああああっ! もぉおおおお! いまレヴィのこと見た全員、エンヴィービームで、黒こげになっちゃえええ!」
悲鳴とともに迸る光線。
それが一閃したのち、校門前はいちめん、溶けたようなタールになった生徒たちのの姿で埋め尽くされたのでした。
レヴィアタン「もう! 学校って、嫌い!」
あ、生徒たちは五分後には復活して、そこんとこの記憶もないみたいなので、めでたしめでたし。
レヴィアタン「ぜんぜんめでたくなんてない!」
