
ぽかぽか陽気の日本晴れ。春真っ盛りのさわやかな新学期。
新緑の風が吹き抜ける校庭の一画で、今日もまた熱い戦いの火蓋が切って落とされた。
毎週火曜日恒例、10個限定の名物パン『パシリも食べたい焼きそばパン』大争奪戦。
厳選された高級食材と最高のパン職人の技が織りなす魅惑のハーモニー。
その味を求め全国から文武両道を極める猛者達が集結することでも有名な名門男子校、男坂学園。
超エリート揃いの学園生活において、一度でも至上最高の焼きそばパンを口にするということは、全国にその実力を示すと共に、各界のスカウトたちの目にもとまる可能性の高い大変名誉なことであった。
ギャラリー「ワァァァァァァァァ!!」
ひときわ盛り上がりを見せている本日の対戦種目は、あまりの危険性から一度は禁止されたという伝説の体育会系競技1on1ドッジボール。
その復活の背景には、今年度4月以降4週にわたって繰り広げられた争奪戦競技において、圧倒的強さを魅せつけた1人の生徒の存在があった。
それは決まって毎週火曜日にだけ現れる幻の新入生……。巨大な腹の音と共に、どこからともなく現れる。
―――ギュルルルルルルル……
長い睫毛にふっくらホッペ。ひときわ目立つ白い肌。大きな瞳を潤ませながら、上目遣いでお腹を鳴らすツインテールの一角魔王……って、ベルゼバブ様!?
その華奢な体躯をセーラー(上)ブルマ(下)なんて凶悪なもので包み込んで、思春期男子を惑わせては、さらりと優勝し一瞬にして焼きそばパンをかっさらう。
まさに暴食の魔王さま!!
バスケ部員「オイオイ、マジか。今までのまぐれは通用しないぜ? やめときな。ケガしても知らねーぜ?」
硬派を気取るバスケ部少年も、その目は何度もブルマをチラ見してしまうわけでして……。
ベルゼバブ「あれ・・・…ほしい」
―――ギュルルルルル・・・・・・
バスケ部員「なんだよ……。そんなすがるような目で見るなよな……」
この勝負、最初から結果は見えている気もするわけですが……。
そもそも何故に暴食の魔王さまともあろう方がこのような場所であのような格好でそのような対決していらっしゃるのかとか……。
大体、男子校の校舎内に明らかに女子的な魔王が紛れ込んでいて、しかも完全に制服度外視で横暴してますよね?とか……。
そんなことは恐らく、ただ単純に「テレビでやってたアレ食べたい」だったり、「いや、彼は女子ではない。可愛い男子なんだ!! そうだ、男子だ!! とにかく男子でいいじゃないか!!」っていう教師も含めた全校男子の想いだったりするわけで……。つまりは、今さら突っ込んだところでどうでもいいわけで……。
―――ピピーッ!!
審判「試合開始ッ!!両者前へ」
勝負はいよいよ決勝戦へと駒を進め、これまでの16戦圧倒的なパワーで勝ち進んできたバスケ部エースと、前回の優勝者でシード権を持つベルゼバブ様の一騎打ち。
ベルゼバブ「はやく……ほしいの」
すかさずいつものようにルール無用で審判にボールをねだるベルゼバブ様。
バスケ部員「オイオイ、最初はジャンブボールからに決まって……」
ベルゼバブ:「おねがい……。だめ……?」
審判「クッ……。いいよ、しょうがない。いい!! はい、もってちゃって!!」
バスケ部員「え? ちょっ、ズルッ……」
……と、バスケ部員の抗議も虚しく、ボールは吸い込まれるように魔王さまの手もとへ。この審判、可愛い子ちゃんの上目遣いに非常に弱かった。
というわけで、労せずしてボールを手に入れたベルゼバブ様は、魔王ルシファーから教わったという必殺技ですかさず先制攻撃へと移る。
くるりと後ろを向いたかと思ったら、キュートなお尻をプリンッと突き出し、大胆不敵な挑発ポーズ。
大きな碧色の瞳を潤ませて、小さな魔王のスペシャルおねだり攻撃。(但し、やっぱりお腹の音付き)
―――ギュルギュル、グルグル、グルルルル……
ベルゼバブ「おなかすいた……」
バスケ部員「オ、オレもだよ……?」
ベルゼバブ「あのね……スキだよ……」
バスケ部員「好きだよ……? お、オレを……?」
んにゃわけねーじゃん! 動揺、スキあり!!
―――ドシュッ!!(投げて)バンッ!!(顔面直撃)バタリ……(だが表情は幸福そうなのね……)で、試合終了。
ベルゼバブ「やきそばぱん!!」
バスケ部部員「うっ……そっちかよ……。ガクッ」
いつもように、勝負あり。
今日もあっさり全ての焼きそばパンがベルゼバブ様胃袋へと収まった。
ベルゼバブ「モグモグモグ……。モグモグモグモグ……。コレ・・・…スキ……」
