
お姫様=それは高貴なお方。清楚で可憐で品行方正、誰よりも美しく誰にでも優しい至高の存在。
レヴィアタン:「ひま、ひま、ひま……ヒーマー!! ちょっと、あんた達たち聞いてるの!?」
その日、東の国のそのまた東、極東の小さな島の始まりの村に姫はいた。もう何日目になるだろう。姫はずっとそこにいた。
レヴィアタン:「んも~、いつになったら助けに来るのよ!?」
それは数日前こと……。
前回、大魔王・ルシファー様の適当な思いつきにより、半ば強制的に『魔王物語』へと参戦させられることとなった魔王様方。
面倒気にやる気のない他の魔王様方と違い、ルシファー様とのお戯れのひと時とあって、いつも以上に大変興奮され、笑顔の耐えないレヴィアタン様に課せられた役目は、この手のRPGには欠かせない麗しのお姫様。
レヴィアタン:「それでお姉様、わたしはなにをすればいいの?」
ルシファー:「そうねぇ? みんなと同じように勇者を信者化する数を競うのも一興ではあるけど……。それじゃあありきたりな気もするし……」
ベルフェゴール:「姫は敵にさらわれなきゃダメなんだよ?」
ルシファー:「それ、面白いわね。レヴィ、あなたさらわれなさい!」
レヴィアタン:「え? お姉様に助け出してもらえるの!? やったぁ!! それなら、わたしいくらでもさらわれちゃうんだから!!」
かくして、その日のうちに優秀かつ草食系寄りな勇者達が選抜され『レヴィアたん姫神隠し隊』が結成された。
その後台本通りに魔王城からさらわれたレヴィアタン様は、勇者達の住む始まりの村へと案内され、現在に至るわけなのだが……。
誘拐イベントから数日、村はいつものように穏やかで、いつものように何もなく、村人達もいつものように同じことばかりをつぶやくばかり……。選抜メンバーである『レヴィアたん姫神隠し隊』も、草食系ゆえに姫を襲うどころか遠巻きにチラ見するばかりで……。
レヴィアタン様は、魔王人生至上最大の退屈に見舞われていらっしゃいました。
レヴィアタン:「遅い!! ルシファーお姉さまはまだなの……? いつまでこんなとこにいればいいのよ!!」
いかに周りの勇者達がお慰めしようと努めても、ルシファー様を待ちわびるレヴィアタン様のストレスは増すばかり……。
レヴィアタン:「もしや、こちらにいらっしゃる途中で、敵にやられちゃった?? ううん、お姉さまに限ってそんなことあるわけないわ。てことは、本気で私のことを忘れてらっしゃる? ううん、そんなの絶対絶対ぜ~~~ったいありえない。西から昇ったお日様が東に沈むくらいありえない。てことは、一番可能性が高いのは、他の誰かのわがままに付き合って、それが案外面白くて、仕方なく道草してるってことくらい……」
さすがはレヴィアタン様、大好きなルシファー様を心の底から信じ切っていらっしゃるご様子。
しかし、現実とは残酷なものでして……。
ゲーム開始から数十時間目、『勇者物語』を『魔王物語』へとリニューアルされたルシファー様は、レヴィアたん姫の救出イベントを、ウッカリ、スッカリ、コロッとお忘れになり……というより、このゲームにすっかり飽きておしまいになり、その他の皆様方をゲーム内に残したまま、一人現実世界へとお帰りに……。
とはいえ、それを知らないレヴィアタン様も、待ちぼうけが限界のようで……。
レヴィアタン:「だったら、わたしがお姉さまをお迎えにいけばいいんじゃない!」
満月の照らす小さな小道。
何とか引き止めようとする勇者たちを、悩殺ポーズで瞬殺し、城を抜け出された麗しの姫君は、深海のブルーが目にも鮮やかなマーメイド風ドレスに身を包み、少々心もとない小さな杖と楯を装備して、真夜中の森を駆け抜ける。
愛くるしい童顔フェイスにキラリと光る汗、高揚した頬、窮屈そうにドレスへと収まっている魅惑的なバスト。
何とも悩ましいそのお姿に、彼女を背中に乗せたユニコーンすらも、かなりの興奮状態。
―――チャララタッタラー♪
……と、そこへ出くわしたのは、レヴィア姫のフェロモンを嗅ぎ付けた魔物……と思いきや、なんとあの愛しの大魔王・ルシファー様!
レヴィアタン:「ルシファーお姉さま!!」
嬉しさのあまり、思わず駆け寄るレヴィアタン様。
……が、しかし実はこのルシファー、真っ赤な偽物。ルシファーアバタ―を購入したただの一般ユーザーだったわけでありまして……。
レヴィアタン:「あんた、誰!?」
ルシファーもどき:「あ、あの、オレ、と、囚われのレヴィア姫を助けに……」
瞬時にその違いに気付かれたレヴィアタン様の気分は、一気に天国から地獄へ。もちろんお怒りMAXの超臨戦態勢。
レヴィアタン:「ルシファーお姉さまの姿を語るなんて、絶対許せない!」
ルシファーもどき:「え? あの……オレ……マモン様からアバタ―を買っただけで……」
そう、彼は悪くない。彼は何にも悪くないんですよ? レヴィアタン様……。
レヴィアタン:「問答無用!! コマンド入力→まほう→『この先、彼女ができそうになる度に、他の娘と付き合ってると誤解&嫉妬されて、ちょっと困っちゃう呪い』」
ルシファーもどき:「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!」
教訓:むやみに人から物を買ってはいけません。
レヴィアタン:「でもちょっとだけ可哀想だから、一生あたしのことを好きでも許したげるわよ……」
