
僧侶=ファンタジー系RPGゲームにおいて、主に回復や治療術を得意とする魔法使いの一種で、パーティに一人は必ず組み込んでおきたい必要不可欠な存在。レベルが上がるにつれ回復力も上がり、死者を蘇らせることのできる上級魔法を使えるようになる。お金と時間の節約にもなる頼もしいキャラクター。
大司祭「皆の者!! 静粛に!! これより、詐欺、恐喝、堕落幇助の罪により、『偽僧侶・マモン』の最後の審判を開始する!!」
協会員達「ウオォォォォォ!!」
数多くの犠牲者を出した前代未聞の大捕り物から一夜明けたこの日、ボーズンニクケンリャケーサマデニイクイ大聖堂は、かつてない緊張感に包まれていた。
場内は悲鳴にも近い怒号が飛び交い、大司祭を中心に集まった世界回復労働党の面々は、礼拝堂中央に置かれた罪人の箱を凝視している。今まさに世紀の大裁判が幕を開けようとしていた。
大司祭「まず始めに、この大罪人は僧侶という職業に定職したにもかかわらず、我ら世界回復労働党に属していないハグレ僧侶……すなわち偽僧侶であることを告発する」
協会員達「アア~……。ブーー!! ブーー!!」
大司祭の吐き捨てるような一言に、聴衆から大きなブーイングが起こった。
罪人を除く、ここにいる全員が、世界回復労働党の組合員である。
世界回復労働党は、『魔王物語』において僧侶、賢者等の回復系呪文を得意とする職業従事者全員に強制入会が義務付けられている労働組合で、聖都市・ボーズンの中枢に位置するボーズンニクケンリャケーサマデニイクイ大聖堂を本部にしている。
最高責任者である大司祭を筆頭に幹部メンバーの権威は絶大なるもので、薬草の値段から死者を蘇らせる際の寄付金に至るまで、全ての決定権を持っていた。
世界回復労働党の基本理念は「非リア充万歳―お一人様からは奪わず―」であり、まだパーティを組んでいない初心者や、リアルに引きこもりユーザーの多い地域では、無償での回復ボランティアを義務化している。
そのため、この世界において回復系は、完全に「お金にならない仕事」であった。
大司祭「我々の送り込んだ調査員の報告によれば、この大罪人・マモンなる者は、リア充、非リア充にかかわらず、治療行為と称して妖しげな薬を売りさばき、とんでもなく法外な報酬を請求するという……非常にしたたかで、かつ傲慢、支払いを拒否した相手には、さらに数倍の慰謝料を取り立てるという恐ろしい凶悪犯である!!」
協会員A「Oh, My God!! なんと卑劣な!! きっと悪魔のような姿をしているに違いない!!」
簡潔、かつ適当にまとめた罪状の読み上げが済むとすぐに、お決まりパターンでの採決が始まった。常に選択肢は一つだけ。有罪のみである。
「魔王物語」内の裁判では、罪人本人への尋問も確認も行われることはない。連行され、裁判にかけられた時点で有罪確定なのだ。
執行刑もまた財産・レベル・スキル没収の上、始まりの街へ飛ばされるという……えげつないものであった。
―――ガタガタガタ……
大司祭「これより、大罪人・マモンの刑の執行を……んん!?」
―――ガラガラガッシャーンッ!!
その時だった!
今まさに、大司祭が魔法の杖を振り上げんとしたその刹那、突然の轟音と共に罪人の箱が勢い良く崩れ落ちた……。
マモン:「フゥ……。やっと出れましたわ……」
……と、次の瞬間、崩れ落ちた箱の中から現れた凶悪犯の姿に、人々は驚愕した。
類まれなる屈強な肉体を武器に、人々から法外な報酬を脅し取る悪魔と噂された彼の人は、調査報告とは似ても似つかないほど麗らかでお美しいエロティックなマダム……強欲の魔王マモン様その人だった。
金色の美しい髪、碧く吸い込まれそうな瞳、いたずらにこちらを誘う悩ましい唇……。サファイヤ色の聖衣に秘められた肉感が圧巻のグラマラスな肢体……。はみ出した横乳からなぞるくびれた腰元のライン……そして、重厚で滑らかな胸キュンものの桃尻……。
初めて目にした完璧な女性を前に、皆思わず生唾を飲み込みこんだ。
マモン:「あら? 皆さん、どうなさったの?」
大司祭:「そ、そなたは何者だ!? 偽僧侶・マモンではないのか!?」
マモン:「確かにわたくしはマモンですが……れっきとした本物の僧侶ですわ」
そう微笑むとマモン様は、片膝を付き腰を落とした。そして両の手を組み、潤んだ瞳で天を見つめる。
マモン:「迷える子羊達よ。神のお力を信じなさい……。さすれば救われるでしょう」
ノリノリで僧侶を演じきるマモン様……。だがこの御方、れっきとした魔王であり神の力など使えるわけもない。
だが人々は、すでにその妖艶なる姿に魅せられており、誰一人として有罪の意を唱えるものはなかった。
協会員:「まちがいねぇ、このお人は天使様だ……いんや、女神様だヨォ!」
大司祭:「どうやら我々の勘違いだったようだ……。申し訳ない」
マモン:「いいんですのよ。間違いは誰にでも起こりうることですわ。それより、皆様なんだがお顔の色がすぐれませんわ。そうだ。わたくしの調合した『いつもの100万倍元気になるお薬』をお譲りいたしましょう。どうぞ、遠慮なさらずに……」
マモン様に言われるがまま、その場にいた全員がその怪しげなショッキングピンクの薬剤を飲み干した。
……と、その瞬間!!
―――ガルッ、ガルッ、ガルルルルルッーーー!!
人々は異常なほどに興奮し始めた。元気を通り越して、完全なる凶暴化。我を忘れ、礼拝堂中を駆けまわった。異常なほど体毛が生え、目は充血し、鼻息あらく、口は半開きで常によだれを垂らす始末。
それはまるで、狼人間のよう……。
マモン:「あら、迷える子羊の皆さんも、すっかり元気になられたようですね。よかったわ~。では、こちらが請求書になっておりますので。尚、解毒剤の方も倍のお値段で販売しております。気軽にお声をかけてくださいね……。んふふ」
―――げに恐ろしきは、聖女の皮を被った魔王様ナリーーー
