
盗賊(シーフ)=ファンタジー系RPGゲームには欠かせない特別スキルを持つ人気キャラクター。戦士や魔法使いなどに比べ、戦闘能力は多少劣るものの盗みのスキルを発動してのレアアイテムの入手や、ダンジョンの攻略での罠や隠し扉などの発見、解除、鍵開けなど、パーティに一人は入れておきたい不可欠な存在。
但し、本作『魔王物語』に関しては、大魔王ルシファー様の愛玩動物であらせられる暴食の魔王・ベルゼバブ様のみの特別なご職業となっており、盗賊スキルでのみ入手可能なレアアイテムを求める数々のパーティからのオファーが殺到している現状である。
―――サッ、スタッ、シュタタタタタタ……
ベルゼバブ:「おうみ……よねざわ……まつざか牛……」
抜き足・差し足・忍び足……。
煌々と世界を照らしていた見事な満月が分厚い雲におおわれてから小半刻。
ここはあの伝説の羽根つき扇子が隠されているという噂のとある豪族の城、センスの有る屋敷。
その夜、皆が寝静まった屋敷内を素早くかつ的確に迷うことなく移動する小さな影が一つ。
盗みのスキルを最大限に生かし、張り巡らされた罠を華麗にスルーする神出鬼没の大怪盗『ツインテールの一角獣』
ベルゼバブ:「にもの……あげもの……おすいもの……」
―――サササッ、サッ!
盗賊スキルその1:闇夜に光るキャッツアイ。
小さな危険も決して見逃さないその超動物的センサーを搭載したその目には、巧妙に隠されたトラップも一目瞭然。
ベルゼバブ:「ここ、そこ、あそこ……まるみえ……」
―――クンクン……クククンッ
盗賊スキルその2:いつでもどこでもトレジャーノーズ。
お宝の放つ微かな匂いを的確に捉え、どんな獲物も必ず探り当てるという警察犬もビックリの脅威の絶対嗅覚。
ベルゼバブ:「このけはい……おたからのにおい……」
―――ピッピッピッ、プシュー!
盗賊スキルその3:天下御免のロックオンローラー。
どんな錠前もものの数秒で開けてしまう……というよりペチャンコに潰して破壊しまう高温高圧の手のひらサンドイッチパワー。
ベルゼバブ:「はんどぱわーです……」
―――ガサガサ、ゴトゴト、ムシャムシャゴックン
盗賊スキルその4:脅威の胃袋、グレートグラトニー
米一粒まで絶対にお残しすることなく食料という食料の全てを喰らい尽くす恐怖の能力。狙われた食材は、一瞬で美味しくいただかれてしまう。
ベルゼバブ:「ごちそうさまでした……」
それはわずか数十分の出来事。
覆面の上からでもそれとわかる端正な顔立ちと、まだまだ幼さの残るスレンダーバディ。昂揚した肢体から匂い立つ得も言われぬ甘美な香り。動きやすさを意識したスポーティな盗賊服ながら、純白でプリティなヒップ&ランジェリーが、高貴な生まれを物語る。
ベルゼバブ:「にんむ……かんりょう……」
お土産がてらの高級食材、両腰いっぱいに本日の戦利品を携え、あっという間にベルゼバブ様は風とともに立ち去った。
まさに天性の盗賊、まさに暴食の魔王!!
その夜、屋敷内に蓄えられていたひと月分の食料(用心棒200人を含む全従業員300人分)が、忽然と消えた。
ベルフェゴール:「おかえり~。早かったね~。例のやつ、手に入った~?」
逗留中の超高級宿屋へとお戻りになったベルゼバブ様を今か今かとお待ちだったのは怠惰の魔王・ベルフェゴール様。
今夜、盗賊稼業へとお出かけになったベルゼバブ様が、センスのある屋敷奥の隠し通路の地下牢に隠されていると噂の伝説の羽根つき扇子を、必ずや盗みだしてきてくれるだろうと、楽しみにしていらっしゃったのです。
早速ベルゼバブ様のバッグを開けて扇子をお探しになるものの……。
ベルフェゴール:「あれ? バブ、伝説の羽根つき扇子は……?」
ベルゼバブ:「にんむ……おいしかった……おやつ、かってにあけるな……」
ベルフェゴール:「おやつって? 扇子は~?」
出てくるものといえば、食べ物、食べ物、食べ物ばかり……。どこにも扇子は見当たりません。
ベルフェゴール:「センスのある屋敷に扇子があるって噂だったのに、ガセネタだったのかな~?」
ベルゼバブ:「あったよ……」
ベルフェゴール:「え? でも、どこに入ってもないよ~?」
ベルゼベブ:「とってないよ……」
ベルフェゴール:「なんでなんで~? 盗賊稼業に行ったんだよね~?」
ベルゼバブ:「そう……ごはんぬすんだ」
ベルフェゴール:「……確かに……それはバブの……仕事だね……」
その夜、ベルフェゴール様は、ベルゼバブ様に盗賊稼業をオススメになったことを計算ミスだったと苦笑いなされた。
……が、その3日後。
『伝説の羽根つき扇子は差し上げます。だからもう、食料庫破りはやめてください!!』
という手紙とともにお宝が届いたことを知り、密かに小躍りされたという……。
ベルゼバブ:「きょうも……ごはん……いく……」
