
踊り子=世にも艶やかなスケスケ衣装を身にまとい、華麗なダンスでターゲットを魅了し惑わせる。ファンタジー系RPGゲームの世界においても、はたまた現実社会においても、ハマると大怪我をするという意味では非常に危険で魅惑的な存在。尚、唯一の武器でもあり防具でもある極上の生地で仕立てられたその衣装は、リラックス効果の高い香りが常に放出されており、『ムラムラさせて敵の戦意を喪失させる』『メラメラさせて味方の集中力を上げる』などといった催眠効果の高い特殊スキルを発動するための欠かせないアイテムである。
それはまだ麗しの魔王様方が、大人気オンラインゲーム『魔王物語』の世界へとご出張中だった頃の出来事。
ベルフェゴール:「だーかーらー……そうじゃなくて~、まずバブが『シークレットダッシュ』発動でアイテムを手に入れるんだけど~、そのためには~、さたんが『タイム・ザ・ストップ』で敵の動きを止めて~……」
サタン:「待て待て待て……」
ベルフェゴール:「アスモちんがエロフ的『フェロモンシャワー』でアレして~……そしたらマモちんの『チョットオナカイタクナ~ル』発動で……」
サタン:「ベルフェゴール卿!!」
ベルフェゴール:「ほへ? どうしたの~? さたん、大声出して~」
サタン:「だから、待てと申しておる!! 貴公、さっきから一体何を言っておるのだ?シークレットなんとかだのストップがどうとかだの……。我には、全く理解不能なのだが?」
ベルフェゴール:「ほへ!? なにって、ラスボスの倒し方だよ~。ね~、アスモちん」
アスモデウス:「ん~、そうね~って言ってあげたいところだけど……ごめんねぇ、ベルフェゴール。私もさっぱり理解出来なかったわぁ。んふ」
ベルフェゴール「ほへ~!?」
その日、魔王物語最終攻略地、最果ての地の恐れの山入口では、世紀の作戦会議が行われていた。
約1ヶ月間に及ぶ物見遊山……じゃなかった、世界を股にかけた冒険の旅を終え、最高級の武器やら防具やらアイテムやらを手に入れた一行のダンジョンクエストも残すところは後1つ。
最終クエスト:伝説のラスボスが隠し持つというこの世の秘宝『大魔王の泪』を手に入れること。
ベルフェゴール:「だーかーらー、最後のクエストは~、みんなで力を合わせないと、クリアできないの~。全員の特殊スキルが必要なんだってば~!!」
……と、普段からは想像もできないほどのやる気と情熱をみせておいでなのは、頑張ることと忙しいことが何よりもお嫌いな怠惰の魔王様・ベルフェゴール様。
ただただ動きたくない楽をしたいという理由のみで、非戦闘要員である踊り子という職業を選ばれたベルフェゴール様ですが、ことゲームクリアに関しては話は別。優秀な指導者として皆様方を導かれ、ゴール目前にしてようやく重い腰をあげられたのです。
レヴィアタン:「それじゃあ無理ね……」
ベルフェゴール:「ほへ?」
レヴィアタン:「だってよく考えてみてよ。これまでサたんが魔法使ったのなんてみたことある? レベルが上っても、毎回とにかくぶん殴るだけだし……」
サタン:「敵を倒すのに手段は関係なかろう……」
レヴィアタン:「マモンたんの回復魔法だって、実際は怪しげな薬でお金儲けしてるだけじゃない?」
マモン:「あら、言われてみればそうかしら……。でも、今度のお薬は効果抜群よ。お一ついかが?」
アスモデウス:「確かに……この中にまともにスキル使える人っていないわねぇ。んふ」
レヴィアタン:「ていうか、この中で一番まともに戦ってないのって、ベルフェたんなんだけど……? もうゲームオーバーでいいんじゃない?」
ベルフェゴール:「ほげ!」
おっとどっこい。こりゃ一大事!!
きっとベルフェゴール様は、心の中でそう叫ばれたに違いありません……。だれよりも怠け者な魔王様も、この世界においては誰よりも負けず嫌いなのですから!!
ベルフェゴール:「むむむむ……こうなったら……。ラ・ムール・ディアーブル!!」
……と、次の瞬間、ベルフェゴール様のタイトルコールを合図に、大音量の愛の歌が山中に響き渡った。と同時に、突如出現したのは、きらびやかなステージとダンスポール。
曲に合わせ、ごく自然に身を委ねるようにしてポールへとまとわりついたベルフェゴール様。そして、これまでに見せたことのない軽やかな動きで腰を振り、リズムを刻み、観る者全てを魅了されていく。それは踊り子最終奥義!!
余分な脂肪の一切ないスレンダーなバディ。銀色に揺れる髪、金色の潤んだ瞳、アンバランスに立派な角と、羊のように可愛らしい耳……。ポールに絡みつく柔らかな肢体が妖艶さをさらに掻き立て、目の前に突出された小振りなヒップがなんとも愛らしい。リズムに合わせ上体を反らす度にぷるんと揺れる、大きすぎずかつ小さすぎないハリのあるバスト。そして、舞う度に漂う得も言われぬ崇高な香り……。
ベルフェゴール様は、いつになく本気だった。
その他の魔王様方を催眠スキルで半ば強引に覚醒させ、一気にラスボス攻略へと向かう。
ベルフェゴール:「まずは~、さたんの魔法で入口の扉を……」
今まさにベルフェゴール様がそう指示をなさろうとしたその時!!
―――ゴゴゴゴゴ
周りの宴に興味をひかれた天岩戸の扉が開くかのように、恐の山入口の扉が開いた。
ルシファー:「あら? あなた達、こんなところでなにしてるの?」
開けてビックリ、中から現れたのは、なんと大魔王ルシファー様!
ルシファー:「全然帰ってこないから、一人で退屈しちゃったわ。ちょうどよかった。さっさと帰りましょう」
ベルフェゴール:「でも……クリアアイテムがまだ……」
ルシファー:「ふぁ~あ~」
なかなか現実世界へとお戻りにならない他の魔王様を連れ戻すため、再びゲーム世界へと舞い戻られたルシファー様。お昼寝明けで思わず出たあくびで、一滴の涙がポロリ。
それは輝く宝石となり、最後の秘宝『魔王の泪』と変化した。
ベルフェゴール:「ほげ!!」
