
それはまさに運命の出逢い……。
夜の帳の下りるころ、一糸まとわぬお姿でトラ柄のソファに身を預け、魔法の箱の光る画面を見つめている退屈なご様子の大魔王ルシファー様。
何とも可愛らしいバナー広告に惹かれ、何気なくクリックされたページで出逢われたのが、何を隠そう今回の主役。
美しく洗練された純白の衣……。滑らかな肌触りを期待させる清潔感あふるる光沢とエレガントな曲線……。その手の代物にしては、法外ともいえる7桁の値段設定がより一層商品の価値の高さを印象付けていた。
ルシファー:「これ、とっても素敵だわ」
普段、この手の衣装など身に着ける機会のない魔王様。思わず購入ボタンをポチッとな。
よもやこの出会いが、あのような事態を招くことになろうとは、この時はまだ誰も知る由もなかった。
時は流れ、数日後の午後6時。
舞台は、日本一の広さと設備を誇るココ、クッキングビッグドーム。
今回のイベントの開始予定時間である5時を1時間ほど過ぎた現在、総勢5万人が収容できる巨大ドーム内では、巨大な特設ステージの設置はもちろんのこと、数々の演出の準備、及び抽選によって選出された観客達の入場も完璧に整っており、後は今イベントの主催者である大魔王様と、特別審査員を務める一部の魔王様の到着を待つばかりの状況であった。
サタン:「一体いつになったら、この催しは開始されるのだ? 我はかれこれ7時間近くもここで待たされておるというのに……」
アスモデウス:「やだ、サタン。それ早くきすぎ。普通は60分前行動が常識よぉ」
とかなんとか言いつつもアスモデウス様が実際に到着されたのは、午後5時06分。
ベルゼバブ:「はら……へった……。にく……にく……にく……」
マモン:「あらあら、それはいけませんわ。ここに私の作製した特製スタミナジュースがございますの。今なら特別料金でお譲りいたしますわ。いかがです?」
レヴィアタン:「ダメよ。そんな得体のしれないもの飲んで、ルシファーお姉様の大事なバブたんがお腹でも壊したら、大変じゃない。でも、ま、一番大事にされてるのはレヴィだけど……」
6時間前にご到着のサタン様、60分前にご到着され観客席へと並ぶ信者達に何やら販売されていたマモン様、6分間にご到着されルシファー様をお探しのレヴィアタン様、いつの間にやらヌヌヌッとご到着されていたベルゼバブ様、6分遅れで気だるい表情のアスモデウス様……。そして……。
ベルフェゴール:「会場まで行くのめんどくさ~い。でも、料理はたべた~い」
というわけで、60分遅れでホログラム&転送参加ということになったベルフェゴール様。
ようやく全特別審査員がお揃いになった6分後の6時6分……。
―――ババババババ。ドンドン、ドッカーン!!
某ヒーロー特撮番組も真っ青の大爆音の花火演出とともに、今世紀最大のお料理イベント『全世界料理王決定戦!!』が開始された。
全魔界のみならず、地上、天界をも網羅したまさに全世界の料理王を決定する今大会。
これだけの魔王様が特別審査員としてお揃いになったのも、超美味な料理を期待されてのこと。
レヴィアタン:「キャー!! ルシファーお姉様ぁ~~!!」
花火、スモーク、巨大液晶スクリーン及びレーザー光線演出で大盛り上がりの開会式に颯爽と登場されたのは、もちろんこの方。今大会の主催者であらせられる傲慢の大魔王、ルシファー様である。
ルシファー:「皆の者、あたしが許可するわ。さぁ、ひざまずきなさい!!」
高らかな開会宣言と共に司会者から発表されたのは、会場内の全ての人々が思わず耳を疑う衝撃的な内容だった。
―――今大会の優勝者は、大魔王ルシファー様に決定いたしました!!
魔王様方:「え……?」
言われてみれば確かに……。
今夜のルシファー様のご衣裳は、滑らかな肌をそっと包み込むシルク地の純白のエプロン、同じ生地を使用し上品な光沢を放つ清楚な下着。チャコールブラウンの靴下と雪のように真っ白なふわふわスリッパと手袋風鍋つかみ。
まさに誰もが一度は妄想するヨダレものの理想の新妻がそこにいた。
ルシファー:「今宵はこのあたしが、最高の晩餐をご馳走してあげる」
最高の笑顔でルシファー様が取り出したのは、大きめのカレー鍋。次々に得体のしれない食材(?)を豪快に放り込んでいくルシファー様。
レヴィアタン:「さすがお姉様!! 料理姿も素敵だわ!」
と言いつつも、若干顔が緊張しているようにも見えるレヴィアタン様。
ルシファー:「後はこれを、三日三晩煮込めば出来上がりよ」
そのお言葉でハッとされた表情のマモン様……。特別審査員席だけに聞こえるようなお声で一言。
マモン:「あの料理……どうやら大魔界図書館に封印されている禁断の魔書に記載されているものですわ……」
ベルフェゴール:「行かなくて正解だったかも~。でも、転送機能解除するのめんどくさ~い」
アスモデウス:「さすがに私たちまで、三日三晩ここで待つのはちょっとね……」
サタン:「我に食せぬものなどない……(ぷるぷる)」
ベルゼバブ:「にく……じゃない……」
そんな特別審査員席の様子を察してか否か、いち早くアスモデウス様が腰を上げようとされた瞬間、巨大な鉄柱が何本も降りてきて、あっという間に皆様檻の中の仔羊状態。
ベルフェゴール様も、慌てて転送機能を解除されようとなさるものの時すでに遅し。
地獄の業火にかけられたカレー鍋からは、混沌とした得体のしれない謎の紫色の湯気と強烈な臭気が立ち込め始めている。
レヴィアタン:「ルシファーお姉様……、まさか本気で三日三晩もお料理されるわけじゃないですよね……?」
ルシファー:「もちろんよレヴィ、あたしが可愛い貴方たちにそんな真似するわけないじゃない」
その清々しいほどの笑顔に、ホッと胸をなでおろされる魔王様方。
が、しかし……。
ルシファー:「というわけで、お約束のあらかじめ三日三晩煮込んだものがこちら!」
―――ジャジャーン!!
その日以来、魔界通販ではエプロンの販売が禁止されたという……。
