
12月25日、クリスマス。
それは聖なる夜。一年に一度、世界中が幸せに満たされる夜。
恋人達は周りの目など気にする様子もなくお互いの愛を確かめ合い、子どもたちは待ちに待ったプレゼントへの期待感を胸にベッドへと入る。
そんな中、恋人も一緒にいる相手もいない心寂しい非リア充と呼ばれる種族は、今年もまたクリスマス反対の思想を掲げ、罵詈雑言の嵐吹き荒れるネットという安息の地でただただ時がすぎるのを待つわけで……。愛ゆえに残酷、そして残酷が故に尊い聖夜。
サタン:「なに!? サンタが失踪しただと? それは真か?」
ルシファー:「もちろん本当よ。明日はクリスマスだというのに困ったことよね」
そのとびきり新鮮な怪情報が憤怒の魔王・サタン様の下へと伝えられたのは、あろうことかクリスマスが目前に差し迫った12月24日、クリスマスイブの午後のことであった。
サタン:「何故だ!? 何故そのようなことに……」
ルシファー:「最近の子供って達観してるじゃない? 『サンタなんているわけねーじゃん』って子供達が噂話してるのを、あのジィさん小耳に挟んだらしいのよ」
サタン:「まさか、それしきのことで、己が使命を投げ出したというのか!?」
ルシファー:「まぁ、それだけならいつものことなんだけど……。ネットの巨大掲示板で『クリスマスなんて滅んでしまえ』っていう非リア充族のアンチな書き込みが追い討ちになってね……。『もう、世の中の流れに疲れました……』って書き置きを残して消えちゃったのよ」
とまぁ、謎のサンタ失踪事件の概要はそんなわけですが、情報の発信源はといえば、そんなことに興味がお有りだったとは、お釈迦様でもご存じない魔王の中の魔王様・ルシファー様なわけでして。まさか、今度はサタン様で何かを企んでらっしゃるなんてことは……。
サタン:「どういうつもりだ!? サンタがいなければ、クリスマスは成立しないだろう!? プレゼントを心待ちにしている子供達だっているんだぞ!!」
ルシファー:「そうよね。そう思うわよね。ハイ。じゃあこれ、よろしくね!!」
当然のように憤慨なさるサタン様をなだめる様にルシファー様が差し出されたのは、この日のための特製のサンタ服。真っ赤な帽子に、セクシーなミニワンピ、衣装とおそろいの手袋と、プレゼント入りの巨大な袋。
サタン:「おい、これは何だ!? こんなもの着れるか!!」
ルシファー:「可哀想ないい子達のために、サタンがサンタになったらどうかしら? サタンとサンタ、名前もよく似てるし、あんな老いぼれたジィさんより、子供達も喜ぶと思うんだけど……(クスクス)」
サタン:「そうか……。そういうことなら、行かねばなるまい……」
シャンシャンシャンシャン……。真っ赤な衣装の魔王様は~、いつもみんなを恐れさせ~……。
サタン:「クッ!! 袋がでか過ぎて、入りきらぬではないか!」
時は、12月25日、クリスマス(深夜2時)
深々と降り積もるホワイト・クリスマスの中、凍える心に幸せを運ぶ赤い魔王様がお一人、とある煙突の先っぽでテンパッていた。
定番の真っ白な髪は鮮やかな朱色の情熱的な髪へと、トレードマークのフサフサのひげはプルンと柔らかそうな唇に、ふくよかが売りの肉体は、そのふくよかさをバストに集約し美しい谷間をプロデュースした完璧な肢体へと変貌させた、新進気鋭のサタンクロース。
サタン:「ええい、忌々しい煙突め!! 早くここを通らねば、サンタを待ついい子達にプレゼントを届けられぬではないか!!」
ミニスカサンタコスから部分的に覗かせる艶かしいもち肌。寒さ対策のための長めの手袋も真っ白なニーソーも、むしろその熱を帯びたもち肌部分の破壊力を増幅させているに過ぎない。流石はルシファー様。仕事が丁寧かつ的確にございます!
―――カシャッ……
ふと、聞き慣れないシャッター音が辺りに響いた。
サタン:「何だ!? 誰かいるのか!?」
―――カシャッ……カシャ、カシャ、カシャッ……
サタン:「何者だ!?」
非リア充同盟:「サンタだ!! 女の子のサンタだ!! やっぱりあの『今夜、○○の煙突に、非リア充のための萌えっ娘サンタ降臨』っていう書き込みは本当だったんだ!! クリスマス万歳!! サンタクロース万歳!!」
―――カシャ、カシャ、カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ!!
一斉にたかれるフラッシュ。激撮されるサタンクロース!!
サタン:「ちょっと!! やめろ!! 撮るな!! ちょっ、お前ら……。やだ……抜けない…」
不測の事態に動揺するサタン様。突如舞い降りたサタンクロースに興奮する一同。
非リア充同盟:「とうとう我々にも、春がやってきたのだ!! サンタクロース万歳!! 非リア充万歳!!」
―――カシャ、カシャ、カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ!!
サタン:「ふざけるなよ……。この私が、やめろと……言っている。ちょ、やめて……」
―――キュイーン…ドグゥアァァァァァン
非リア充同盟:「ウオォォォォォォォ!! サンタっ娘……バン……ザイ……」
その日、恥ずかしさのあまり思わずお放ちになったサタン様の赤い閃光が、舞い散る雪と非リア充達を桜色に染めて『これまでで、一等綺麗なクリスマスナイトじゃったんじゃ』と、後にサンタクロースは興奮気味に語ったという。
12月25日。クリスマス。
それは聖なる夜。一年に一度、世界中が……、そう非リア充すらも幸せに満たされる夜。
ルシファー:「こういうのも、たまにはいいんじゃない? フフフ……。メリークリスマス」
サタン:「ううう……抜けない……」
