
灰色の空、薄気味悪い雲、そして咆哮する巨大な生き物……。
陰る太陽、不毛な大地、そして飛び回る巨大な生き物……。
吹き抜けるムッとした風、時折飛び散る正体不明の緑の液体、そして黒光りする……。
レヴィアタン:「やだやだやだやだ!! も~こんなトコ、絶対嫌!!」
それはとある麗らかな休息日の午後のこと。
誰よりも何よりも心から愛してやまないルシファーお姉様主催の素敵な水着パーティがあると聞いて、いつものブランチも取らずに慌ててやってきたこのレヴィを待ち受けていたのは、あろうことか汗と砂にまみれた男臭いテンガロンハットの信者集団。
どうやらレヴィは、なんだかよくわからないこの大会のゲスト解説者らしいんだけど……。
わけも分からず促されるまま実況席へと案内され、派手に登場するはずのお姉様を待ちわびていたレヴィは、次の瞬間その期待を見事に裏切られた。
地平線の向こうから颯爽と現れたサラブレッド……ではなく、愚鈍なポニーにまたがっていたのは、美しく気高いレヴィのお姉様ではなく、巨大なスイカを2つ胸に揺らした『ドラッグ is マネー』が信条の子持ちの熟女魔王・マモンたん。
いい年して、ウェスタン調のキワドイ水着なんか着ちゃって……。も~すんごいエロス出しまくり。
なんか、心なしかさっきから、信者達の目線がレヴィからマモンたんに流れてる気がするんだけど……。
マモン:「あらレヴィアタンさんじゃない? こんなところで会うなんて奇遇ね」
なんて、とぼけてたけど、この感じだと絶対マモンたんが仕組んだに違いない。
ほんと、この人ってばお金のためなら平気で魔王まで売るんだから……。レヴィはだまされないんだからねっ!!
でも……、この時はまだ本当の意味では気づいていなかったんだ。何故マモンたんが、嫉妬の魔王であるレヴィを選んだのかってこと。
マモン:「でもレヴィアタンさんがいらしてると知ったら、うちの子達も喜ぶと思うわ」
レヴィアタン:「え? 子供連れなの? 何匹?」
え~~!! マジで!? こうしちゃいられない。早く逃げないと、またマモンたんのお子達に玩具にされちゃう!!
……と、慌てたのもつかの間……。
―――プシャーッ!
え? ちょっとマモンたん、何やってるの?? マモンシャワー?? 何そのダサいネーミング……。
突然、強欲な魔王が妙な液体を豪快に巻き始めたかと思ったら、次の瞬間にはそこは完全な地獄絵図と化した。
さっきまで汗臭いながらも爽やかに整列していたテンガロンハット達が、次々に奇声を上げて豹変……ていうか、変身??
ほんの一滴口にするだけで、向こう1年間は元気ハツラツハッスルタイムが持続すると噂の精水って、ハッスル通り越してどこをどう間違ったのか、アレもう既に完全に人間の形態じゃない。
次々と変化していく彼らの姿は、例えるならそう……赤・青・黄色の節足動物。
顔の半分以上を占める赤い目玉をギョロリと動かし、めくれた背中から羽を生やし始めた今年中学2年生になる娘を持つオニヤンマ……。さっきまでこちらをチラ見しては下手なウィンクを繰り返していたイケメン気取りのシナルリタマムシ……。黄色と赤が気持ち悪いほど絶妙な配色の自称エリートサラリーマンなテントウムシ……。
一見ただの昆虫博物館なんだけど、それら全部がアフリカゾウ並みの巨大サイズ。
レヴィアタン:「イヤー!!」
マモン:「今年は流行りの昆虫風にアレンジしてみましたの。如何かしら? ほらほら見て、子供達もあんなに大喜びで……」
確かに大喜びでテンガロン昆虫にタックルかましてるけど……あれってじゃれあってるっていうより、ほとんど格闘??
そんな中、お子達の一匹が蹴り飛ばしたこの世で一番恐ろしいものが目の前数メートルの距離に……。
レヴィ:「昆虫って、アレ、どう見てもカブトムシじゃなくてゴ……。レヴィ……もうダメ(ドサッ)」
―――数時間後……。
どのくらい気を失っていたのか……目が覚めるとそこは、さっきまでの阿鼻叫喚が嘘のような静寂に包まれていた。
遊び疲れたお子達は、満足気にお昼寝タイムに突入中。
レヴィを恐怖に陥れた節足動物軍団は、皆一様に干からびてわずかにうごめくばかり……。
レヴィ:「うわっ……。兵どもが夢のあとすぎる……」
ほとんど状況把握できないまま、マモンたんの姿を探すと、ミイラ化した昆虫達の群がる一角に見覚えのある透明ドーム。
マモンたん、所々敗れた水着姿のまま必死で何かのお薬を作製中の様子。ふとレヴィの視線に気づいたのか、ホッとした顔で助けを求めてくる。
てか、身振り手振りで訴えられても、レヴィ何にもわかんないんだけど……。可愛く首をかしげて困惑してたら、足元のミイラが口を開いて超ビックリ!!
実況アナ:「恐れながらレヴィアタン様……。私が通訳を……」
マモン:「ちょっぴり薬の配合が間違ってたみたい。元に戻すには強烈な興奮フェロモンが必要なのよ。レヴィアタンさんにもお手伝いを……。あ……でも、彼らには少し物足りないかしら……?」
ちょっと、それってどういう意味よ!! レヴィじゃ役不足ってわけ? そりゃあこいつらは、『マダム同盟』なんてわけの分からない熟女マニアの集まりだけど……。
ルシファーお姉様の寵愛を受けているレヴィみたいなイカした魔王が、おばさん魔王になんて負けるわけないじゃない。いいわよ。受けて立つわ!! 嫉妬の魔王の実力、なめんなよっ!!
マモンたんにニッコリと笑みを返し、颯爽とステージへと駆け上がると、ミイラ連中がこちらを意識したのを確認して、おもむろにタイトなスパッツを脱ぎ捨てる。際どいラインのブラックショーツが姿を現す。
レヴィアタン:「あんた達!! こっちを見なさい!!」
と、その瞬間奴らは激しくうごめきだして……やっぱりちょっと気持ち悪かったけど……。ここまで来たら負けられないもん。
Tシャツの裾を一気にバストの上までまくし上げた。っと……勢い良くやりすぎて、予想よりもはるかに揺れて、若干ポロリしかけたのはご愛嬌。
レヴィアタン:「あんた達のためにやってるんだから、感謝しなさいよねっ!!」
次の瞬間、今まで干からびてるだけだった連中が、ゴボゴボッと音を立てて立ち上がった。
硬い殻の中から再生した人間のそれで、テンガロンハットをつかむ中途半端な男達。
てか、あんたたち! とにかく、レヴィで早く復活しなさいよっ!!
レヴィアタン:「別に、好きで見せてるんじゃないけど、レヴィで……元気になりすぎてもいいんだからねっ!!」
