
魔法使い=それはファンタジー系RPGのパーティには無くてはならない存在。レベルが上がれば上がるほど、より強力な攻撃魔法で指一本触れることなく敵を倒し、さまざまなサポート魔法まで使いこなしてしまう一粒で二度オイシイキャラクター。但し、使える呪文を覚えるまでは、体力のないただの雑魚キャラである。
傲慢の魔王ルシファー様の適当な思いつきにより、半ば強制的に『魔王物語』へと参戦させられることとなった魔王様方。
久方ぶりの全員参加イベントにご機嫌の大魔王ルシファー様を尻目に、皆々様は今ひとつお気が進まないご様子。
中でも憤怒の魔王であらせられるサタン様に至っては、招集以来ルシファー様のご計画にも耳を貸そうとはせず、黙って座り込んだまま微動だにされない有様でございます。
アスモデウス:「どうしたの? サタン。戦闘好きのあなたが、こんな時にダンマリなんて、気持ち悪いわ」
サタン「気に入らぬ……」
アスモデウス:「え?」
サタン:「こんなものは戦争ではない!! 素人風情相手に退屈な戦争ごっこなど、我の性に合わん。くだらぬとは思わないか?」
三度の飯より戦争好き。生粋の戦士であらせられるサタン様にとってみれば、いくら精巧に作られた体感型オンライン対戦ゲームであったとしても、ゲームはゲーム、所詮は子供の遊びだということなのでございましょう。
ルシファー:「あら、だったらサタンも本気になれるように、あたしが最高の舞台を用意してあげるわよ……。あなた、魔法使いになりなさい!!」
サタン:「な、なんだ? それは??」
かくして、サタン様に与えられた職業は、誰もが一度は憧れる魔法使い。
ただし、戦闘の天才であるサタン様のため、レベル1からのスタートに。当然最初から使える魔法はゼロ、初期装備もまた、ただただ見た目が『セクシー』そして何より『肌触りがイイ』という戦闘効果ゼロのものが支給され……。
サタン:「ルシファー卿……。これは、一体なんの冗談だ!?」
ルシファー:「あら、よく似合ってるじゃない。素敵よ、サタン」
アスモデウス:「ほんとぉ~。すっごくイイわ。思った通り、貴女にピッタリね」
サタン:「ピッタリだと? ペラペラの下着に風変わりな帽子一つだぞ! 貴公ら、よもや我にこのような姿で戦場へ出向けというのではあるまいな? これでは裸同然ではないか!?」
アスモデウス:「や~だ~、そんな怖い顔しないの~。せっかくサタンにも楽しんでもらおうと、ルシファーと知恵を絞ったんだから~。ねぇ~」
ルシファー:「そうよ。戦争マニアのサタンに、これ以上『くだらない』だの『退屈』だの言わせないためにね。サタン、今のあなたは、ここで一番弱いの。その辺のプヨプヨしたものも倒せないような最弱キャラ」
サタン:「我が最弱だと……?」
確かに、いつもの愛用の武器は手元になく、持っているのは木の杖が一本だけ。
サタン:「ふん、よかろう。少しの間、お付き合い致そう……が、せめてもう少し何か布面積の広いものはないのか?」
ルシファー:「サタン。ここは既に戦場よ。甘えたこと言ってないで、魔王なら魔王らしく、戦って奪い取ればいいじゃない」
さすがはルシファー様。サタン様のツボをよくご存知で……。
サタン:「よかろう……。目にもの見せてくれるわ!」
そんなわけで、それからすぐにお一人で魔王城を出発されたサタン様、最弱だというのにもかかわらず、強敵の多く潜む森の中をズカズカと分け入って行かれます。
無論、その気品たるや王者の風格。さすがは悪魔軍を束ねる憤怒の魔王様。
ですが、ここはひとつ弱いモンスター共を倒しながらレベルアップを図りませんか?
そうでなくても、歩いているだけで、そんなに顔を赤らめて、うなじから胸元へとつたう汗がなんとも悩ましいではありませんか!?
サタン:「…………っ……」
ほうら御覧なさい。もしや体力が減っているんじゃありませんか??
―――チャララタッタラー♪
な、なんということでしょう!!
こんな状態で、サタン様が最初に出会われた敵は、こともあろうか最強レベルの難敵である赤マントの大魔道士。
赤マント:「見たところ見習い魔法使いのようだが、大魔道士のおれとやろうってのかい?」
こちらをニヤニヤと凝視して、今にも襲いかからんばかりの赤マントの男。そりゃあそうでしょうとも。どこから見ても、美味しそうな……ホントに色んな意味でオイシソウな獲物なんですから!! まさに逃げても勝てない絶体絶命状態。
サタン:「……かしい……しい……」
赤マント:「なになに? なんか呪文唱えてるのかな?」
サタン:「……恥ずかしい……欲しい」
そうでしょうとも……。いつもならこんなヤツなど朝飯前でなわけなのですから……。
赤マント:「え~? なになに? 何がほしいの?」
さぞかし心中煮えくり返って、そんな自分が恥ずかしく……力が欲しいと……。
サタン:「だから! すごく恥ずかしいから、早くそのマントをよこせと言っているのだ!!」
え……? そっち?
―――バッコォォォォン!!
一瞬の旋律。その衝撃たるや、相当なものだった。
見習い魔法使いサタン様の杖による一撃は、最強攻撃魔法に匹敵するチートギリギリの破壊力であった。
赤マント→ただの男:「それ……アリ……? ガクッ」
そして後に残ったのは、敵から奪い取った上級魔法使い専用の高級杖を手に赤いマントを颯爽と着こなした美しい魔女。
サタン:「戦いとは、常に非情なものだ……」
―――こうして伝説は生まれた。
♪赤いマントをひるがえし、今宵も魔女がやってくる♪
♪大きな帽子のナイスバディ♪極小水着のチラリズム♪
♪杖という名の棍棒で、片っ端からめった打ち♪呪文は噛むから使えない♪
♪OH,OH,最強の魔法使い♪ユー・フェア・レディ♪
