ただし、ここにあげた黒ミサはかなり「お堅い」ものである。実際に行われていた黒ミサは、正式なミサの形式にとらわれることのない、型破りなもののほうが多かったという。中世ヨーロッパで行われた魔女狩り裁判の記録では、「出産前の胎児を焼いて食べる」、「魔術によって悪魔を召喚する」、「魔王の尻にキスをする」、「参加者全員で乱交を行う」、「尿や糞を垂れ流す」などの邪悪きわまる儀式が行われていたことがヨーロッパ各所で報告されている。
魔王崇拝には、キリスト教そのものと同じくらいの長い歴史がある。もっとも古い魔王崇拝の記録は、キリスト教が生まれてから200年もたっていない2世紀のフランスにて、キリスト教の教義をゆがめた異端の司祭が黒ミサを行ったという告発だ。
その後も魔王崇拝は世界に広まり続けた。有名なところでは、14世紀初頭に、熱心なキリスト教徒だけで構成された騎士団「テンプル騎士団」が、山羊頭の悪魔バフォメットを崇拝していたという疑いをかけられたり、フランスの聖女ジャンヌ・ダルクの戦友だったジル・ド・レイ元帥が黒ミサに傾倒し、100人以上の子供を殺した罪で処刑されるなどしている。
また、15世紀ごろになると、ヨーロッパ全土で「魔女裁判」が盛んになり、多くの魔女たちが魔王崇拝の儀式(サバト)を行ったとして逮捕、処刑されている。
その後、ヨーロッパに科学的な思想が広まったことによって一度は下火になった魔王崇拝だが、実は現代になって、徐々に盛り上がりを見せはじめている。世界各地で活動する魔王崇拝団体が、自身の活動をインターネットでおおっぴらに公開し、メンバーを集めるようになったのだ。キリスト教の総本山である「バチカン」は、インターネットを通じた魔王崇拝の広がりを防ぐため、エクソシスト(悪魔払い師)を世界中に派遣するなど、対策に追われているのである。