キリスト教の信者は、神を信仰し、崇拝しなければならない。魔王崇拝とは、この原則に反して、神ではなく魔王を自分の主人とする行為のことだ。英語では、魔王サタンの名をとって「サタニズム」と呼ばれる。
魔王崇拝者がおこなう儀式は、キリスト教の聖なる儀式「ミサ」を真似たもので、「黒ミサ」または「サバト」と呼ばれている。
本来のミサとは、処刑を翌日に控えたキリストが12人の弟子とともに食事をとり、弟子のなかから裏切り者が出ることを予言した「最後の晩餐」を再現する儀式だ。
キリスト教の正式なミサでは、儀式のためにパンとワインが用意され、神をたたえる賛美歌を歌った後で司祭がイエスの言葉を朗読する。聖書の記述によると、最後の晩餐の場で、キリストは、パンを「自分の肉」、ワインを「自分の血」として弟子たちに分け与えたとされているが、儀式を行うことで、聖書の記述どおりに儀式のために用意されたパンとワインがキリストの血と肉に相当するものになるとされている。ミサの参列者は、このパンとワインを食べることで自分の体にキリストを取り入れ、日々の暮らしで重ねてしまった罪を浄化するのである。
これに対して魔王崇拝の儀式である黒ミサは、正式なミサの儀式をゆがめて、魔王が喜ぶ儀式へと作りかえる。たとえば儀式用の聖なるパンにナイフを突き立てたり、パンのかわりに腐ったカブ、黒い皮などを用意する。ワインの代用品は、人間の尿や幼児の血液が使われるとされる。そのほかにも司祭の服装を黒で統一したり、会場には上下を逆さまにした「逆十字」を飾り付けたり、イエス・キリストの象徴である十字架にツバを吐きかけるなどの冒涜的な行為を行うのだ。こうすることで本来の儀式の効果はゆがめられ、儀式の参加者に都合のいい効果がもたらされるのだ。